一章 漆黒の龍
(夢……か……)
 気がつくとノエルは堅い岩肌の上に仰向けになって倒れていた。
 辺りは暗くじめじめとし、時折吹く冷たい風は傷口を刺し、そのたびに激しく痛む。
 まだ目が慣れず何も見えないため、どのような場所だかは把握できない。
(夜なの……かな? どれくらい寝てたのかな……あのとき)
 痛みをこらえながら身を起こすと、先ほどの夢――先日起こった事件――について思い返してみた。
(風に話しかけられて、ハウエルを起こして……みんなを起こしてもらって……けど間に合わなくて)
「ダメ……これ以上思い出せない。――どうして? そういえばどうして私は一人なんだろう……」
 確か逃げる時に誰かに話かけられた気がする。なのにどうして一人なのだろうか。考えれば考える程思考は出口のない迷宮を彷徨うかのごとく訳も分からず混乱し、ノエル本人の思考は悪い方へと向かっていく。
(そうだ、どっちにしてもあのとき……あのときあそこで、休まなければこういうことにならなかったんだ。みんな私のせいだ。あそこで我慢して飛んでいればこういうことにならなかったのに)
 混乱すると何もかもが自虐的になってしまう。ノエルの悪いところだ。
――もう、何がなんだか分からない。


 ここで一端ノエルは思考を中断した。
 目が闇になれて辺りの様子が分かるようになったからだ。
 周りは苔むした岩壁に囲まれている。ここは洞窟のようだ。部屋の隅のは泉が湧き、少ない水が小さな川をつくりあげている。
 また天井にあいた小さな穴から微かな光が漏れていて、まだ外が明るいということが伺える。
 ということは、はじめノエルが考えていた夜というのは間違いということになる。
(眠っていたのは数時間くらい? それとも何日も……? それにしてもここにいることって)
 一つの疑問が生じる。
 それでも考えていても埒があかないと思い立ち上がろうとした。

――がしかし、立ち上がれなかった。
 身を起こすことはできるのだが立ち上がることができない。まるで腰が地面に縫いつけられているかのようだ。
(……?)
 痛みをこらえながらももう一度たちあがろうとする。
 が、やはりダメだった。
 はじめこそ力が入らなかったからだと思ったのだが、体に力を入れ身を起こすことはできるので何か別の要因があるようだ。
 ふと思い立って自分の触れている地面を見やる。まず手元、異常なし。続いて足下、こちらも問題ない。
 それじゃあ腰……腰。
 腰の辺りに肉眼で確認できるかどうか程度の光がほのかに輝いている。いや違うほのかに輝く紐のようなものだ。
(結界? それも対象の行動をより制限する紐状に縒ったもの……?)
 もしそうだとしたらこれを仕掛けた者は相当な術者であろう。何せ結界の形を自由自在に変化させられるのだから。
 それによって、さっき生じていた疑問が確信に変わる。
――誰かに連れてこられた。
 それ以外考えられなかった。
(誰かに捕まったんだったら何で生きてるのかな? もしあいつらだったら生かしておかない。ううん、もしかしたら見せしめで後で殺すのかも)
 先日の件だって不自然なところがある。何で私一人だけが逃げ切れて他の者が逃げ切れなかったのか。もし逃げられるなら何人かは逃げられただろうし、今回のようなことだったら一人でさえも逃がさないはずだ。いや逃げ切れないはずだ。
 でも事実ここには私一人しかいないし。

「きっとみんなやられちゃったんだろうな。みんな……会いたい」
 ぽつりと呟く。その目には涙が宿っていた。さらに言葉を続ける。
「でも、私もきっと殺されるのだから…………ううん、そんなこと考えちゃだめ。きっとみんな生きてる。生きていて……」

 とその時、奥の方から重い足音が聞こえてきた。おそらくここの主のものだろう。
「どうしよう。どっちにしてもこのままじゃ逃げられない」
また一歩足音がこちらに近づく。
 このときふとノエルは気づいた。この足音は何か大きな生物のものであるということに。
(この足音、人間じゃないの? でもそんなことよりも)
 必死にもがく。が結界はびくともしない。
また一歩足音が聞こえる。
「風よ、戒めを解く鍵となりて我を解放せよ」
 解除呪文を唱える、がやはりびくともしない。
 せっかく湧いた希望が絶望に変わる。
 そして岩陰から片足が現れ、そしてその主が姿を現す。
 山のような巨体。それに匹敵する翼。トカゲを思わせながらも美しく見える顔。全身を覆う輝く鱗。
 見間違えようがない。龍だ。
(どうして……どうして龍なの……生き延びようと決めたのに……よりによって龍だなんて、逃げるなんて無理だ)
 相手は龍だ。この地上において圧倒的な力を持つ。それなら
 結界に対し全く持って歯がたたなかったのも頷ける。
 龍が何かを言ったようだったがよく聞き取れなかった。
 低い咆哮とも取れる声が洞内を反響する。
 ノエルは恐怖からきつく目を閉じた。
 足音が一歩一歩こちらへと近づいてくるのが聞こえる。
 さらに身を堅くする。
 もう龍は、その息吹を身体で感じる程のところまで来ている。
(食べる気なのかな……せっかく生き延びるって約束したのに)

 ところが、いつになってもその一噛みはこなかった。
 しばらくして、何かが頭をなで。
「気がついたようだね。怖がらなくてもいいよ。もうだいじょうぶだから」
と言った。
 恐る恐る目を開ける。
 そこにあの龍の姿はなかった。
 代わりに一人の黒髪黒眼の少年が腰を下ろして微笑んでいた。


         ∇    ∇


 シルヴァは姉の家に来ていた。
 姉の名はレムレスといい、翼龍族では一般的な灰白色の鱗を持つ龍だ。
 まだ若いが薬草に関する知識は一族の中でも群を抜いていて、龍族全体の中でも数少ない調薬が認められた龍の一人だ。
 基本的に彼女は朝に弱く、昼にならないと起きないこともよくある。
 そのため、気持ちよく寝ていたところをシルヴァに無理矢理起こされて機嫌が悪い。
「朝っぱらかな何の用なのよ。黒坊」
 ちなみに黒坊とはシルヴァのことである。
なぜ黒坊なのかというと、翼龍族は普通灰白色や淡青色、それに近い色の鱗を持って生まれるのだが、シルヴァは突然変異亜種(突然変異と言ったら白が普通なので)といった感じで、それこそ光を吸い込んでしまいそうな程の黒い鱗をもって生まれてきたからだ。
 無論周りからの注目の的となり、それを嫌った彼は百歳を期に集落を離れ、洞窟に住みはじめた。と言った感じだ。


「ああ、そのことなんだけど。友人が怪我してね、ちょっと危ない状態なんだ」
「ふうん、そうなんだ。黒坊。友人なんていたんだ。へえ」
(やば、めちゃくちゃ機嫌悪そう)
 小声で呟く。
 だが……
「何かいった? 黒坊」
 聞こえていたようだった。
「い、いや、なにも……」
「本当に? 黒坊」
(何とかして話をそらさなくては)
 内心そんなことを考え実行する。
「あのさ」
「何? 黒坊」
「もう来年で六百(人間で言う十五,六歳)。一応大人なんだから黒坊はやめてくれよ」
「じゃあ何? クロがいい? 猫みたいな名前ね」
「いや……あの、それは・・・・・・その話はまた今度ということで」
(クロだなんてひどすぎる。話を振るべきじゃなかった・・・・・・じゃなくて)
――こんなくだらない話をしている場合ではない。こっちはけが人を抱えているんだ。
「あら? 今回は偉く簡単に引き下がるのね。つまんないのぉ」
「……つまんないのって、ガキかよ。そんなことより薬くれないか、傷薬。それもとびっきりの」
「わかったわよ。で、どんな感じなの? 症状が分からないと薬の出しようがないでしょう」
「ええと、全身強打で出血多量。意識は不明……かな?」
「かな?っておい。ま、とりあえず傷薬と消毒薬、あと栄養剤に増血剤を出しとくわ。ちょっと待ってなさい」
 そういって地面にあらかじめ描いておいた魔法陣の上に立ち、一瞬にして人間に姿を変える(こっちの姿の方がいろいろと都合がよい)と腰まで届く銀色に髪をなびかせながら奥へと入っていった。
「ありがとう。姉さん」
 だがこの時シルヴァは嘘をついていた。怪我をしたのは龍ではなく人間の(だと思われる)少女だ。
 だったら本当のことを言えと思うかもしれないが、龍族にとって薬は貴重な物。
 他の種族に処方することなど滅多にない。だから嘘をついて薬をもらうという手を使ったのだ。まあ姉は大目に見てくれることも多いが用心にこしたことはない。
 ここでシルヴァは大きくため息をついた。
「いいな、姉さんは。なんで姉弟なのにオレだけ黒なんだろ」
 さっきも言ったとおりシルヴァ自身、自分の体色のことをすごく気にしていた。周りからは黒黒と馬鹿にされるし。親からも捨てられる。
 そのため頼れるのは姉か友人だけだった。
 そんなこともあってからか物心が付いた頃にはすでに他種族に思いやりをもつようになり、他の種族と友好関係を築こうと思っていた。

(そういえばあの子大丈夫かなぁ。逃げ出せないように念のため結界を縛り付けてきたけど相当弱ってたし、逆に身体に障るかな)
 それにしても何であんなところをただよっていたのだろう。ここは大陸にある人里からだいぶ離れているところなのに。
 シルヴァはまた深いため息をついた。


      †     †


――事は小一時間ほど前。早朝。大地の傷跡山脈ふもと。
 シルヴァはいつものように朝の散歩へと出掛けた。
 ルートは気まぐれで集落のある山頂付近は避けて通る。
 日によって島の海岸と大陸の海岸を往復したり、島を一周したり。
 今日は、今日この日は島の北部にある海岸をのんびりと歩いていた。
(たまには歩くのもいいもんだな)
 空を飛んだ時の風を切る感覚も好きだが、歩くのもまた風景を見ながらといったような別の楽しみ方ができるため好きだ。
 例えそれが今歩いているような海岸であっても同様だ。
 確かに海は何処を見ても同じように見えるかもしれない。
 だが、よく観察するとその違いが見えてくる。日によっても変わってくる。
 波はいつも陸へと押し寄せてくるが、その水の流れは様々だ。
 波に逆らって流れていたり、渦を巻いていたり蛇行していたり。言い出したらキリがない程だ。
 そんな日々刻々と変化していく海を眺めるのが好きだった。そうやって水を感じられるのだから水龍や海龍、応龍に生まれれば良かったのにとも思う程だった。
 
(やっぱり海はいいな。水はあるし、強い風もよく吹くし)
 そういってそこら中に足跡を付けながら歩く。
 まあ付けた足跡のほとんどは波にさらわれて消えてしまうのだが。
 しかしまあふしぎなものだ。
 元々風をこよなく好む種である翼龍が(突然変異亜種だが)普通は嫌う水を好むのだから。
(ん、今日はそんなに風も強くないし潜るか)
 そう思うなり翼を広げると、弧を描くようにして海の深いところへと飛び込んだ。
 と同時にすさまじい水しぶきが飛ぶ。
 海中は思っていたとおり穏やかで、空から差す陽光で美しい蒼に輝いている。
 その中を泳ぐ翼龍。それは泳ぐ龍と言うよりも海を滑るように飛ぶ龍と言った方が正しいかもしれない。
 もしこれを人間がこの優雅な様子を見ていたら海龍と勘違いしていただろう。
 水流をものともせずさらに沖へと向かい、そして深く潜り反動をつけて海中から大空へと舞い上がる。
 
 そしてまた飛び込もうとした時だった。
(ん? なんだあれは)
 シルヴァの視界に小さな物が映る。もしこれがただの流木やごみだっだとしたら何も思わなかっただろう。
 だが、その何かに違和感を覚えた。生命の息吹と魔力の残り香を感じるが、それは動かずただ流れに身を任せている。



 不思議に思ったシルヴァはそれに近づいて、思わず息をのんだ。身体から血の気が引いていくのが分かる。
(うそだろ、こんなことって)
 あっけにとられる龍の黒い大きな瞳には一人の波を漂う少女が映っていた。それも体中に傷を負っていて、ぐったりとしている。
(十歳くらいか、体つきはまだ幼い感じがする。髪の色は……かろうじて分かる。人間にしては珍しい、緑だ)
 なぜかろうじてかというと、その少女は前述のような傷で、体中すでに乾き固まった赤黒い血で染まっていたからだ。
 両手で少女を水から抱きかかえるようにすくい上げると、安堵の息を漏らした。
(良かった。まだ息がある。海に落ちてからあまり経ってないな。身体もまだ温かい)
 だが、抱き上げたさいに違和感も覚えた。
 その少女は海を漂っていたというのに一滴も濡れていなかったのだ。
 目をこらして少女をもう一度観察する。
 よく見ると自分の手が直接少女には触れていなかった。
――風か! 直感した。風が彼女の身体を保護するために薄く堅い空気の層を作り、彼女を海水による体温低下から守っていたからだ。
 風を司る翼龍だからこそ分かることだった。
(しかしこの子はいったい……)
 全身傷だらけだったこと。海を漂っていたこと。何より風の加護をうけていたこと。
 分からないことだらけだ。


 それから少しして少女がうめき声を上げ、それでシルヴァは我に返った。
 こんなところで悩んでいる場合なんかではない。まずはこの子を助ける事が先だ。その他の事なんて後からでも何とかなる。
 とっさに魔法を口ずさむ。
 足下に魔法陣が浮かび上がり一筋の光が彼を包む。その刹那、その場からシルヴァは姿を消した。移動用の魔法である。
 

 一瞬間をおいて別の風景が目の前に広がる。
 四方苔むした岩肌に囲まれた小さな洞窟――彼の家だ。
 洞窟の中はひんやりとしていて、所々にある小さな穴からは微かに光が漏れ入る。室内はじめじめして、シルヴァにとっては快適な空間だ。
(とりあえず寝かせておかなくちゃな)
 いつも自分が寝ている軟らかい土の上に少女をそっと降ろした。
 そして念のためと、結界を作り糸のように細くすると、少女の身体に何重にも巻き付け地面とつないだ。
「よし、とりあえずはこれで眠っててもらおう」
 (しかし、傷を治すとなると薬がいる。どうにかして調達しなくては。
 集落に行くのは気が進まないがしょうがないな。姉さんにでも頼んでみるか)
 そして、シルヴァの足下に再び魔法陣が浮かび上がった。


     †       †


で、今に至るわけだ。

 しばらくして奥の間から薬袋を片手にレムレスが戻ってきた。
「おいクロ、薬出来たよ」
「ああ、ありがと」
 その薬をシルヴァは受け取る。
 レムレスは薬を手渡すと同時に薬の説明を始める。
「こっちの薬は外用の、治癒力を向上させるもの。その分体力の消費も大きくなる。で、それを補うのがこっちの粉末。水にとかして飲ませるんだ。とても苦いが肉体疲労をとる作用がある。間違っても傷薬を先に使うんじゃないぞ。下手すると命に関わるからな」
 念を押して言う
「わかった」
「後もう一つあるけどこっちは扱いが難しいから後からそっちに行くよ。どうせまた他の種族を助けようとしてるんでしょ。黙っておいてあげるから観念しな」
「うっ……」
(ばれてる。何でだ。オレってそんなに演技が下手なのか)
 正直言って少しへこんだ。ちゃんとだませたと思ったのに、この分だと最初から気づいていたのだろう。
「やっぱりね。最初からそう言えばいいのに。それよりもクロ、さっさと患者のところへ行ってあげな」
「分かって――」
 言い返そうとしたが最後まで言えなかった。レムレスが移動の魔法で言い返される前に送り出したためだ。一瞬まをおいて視界が入れ替わる。
 着いた先は……もちろんシルヴァの住む洞穴の前だった。
(相変わらず強引な)
 そう呟くと姉に感謝した。
 患者が他種族なのを承知で薬を作ってくれるものなどそうはいない。
 だからこその感謝だった。
 そして洞穴へと足を運ぶ。

 シルヴァの住む洞穴は至る所から水が湧きいくつもの池や水溜まりを造っていて決して足場が良いとは言えない。
 そのため湿気も多く、冷たい風も吹き抜ける。
 だが悪いところだらけではない。
 その水があるからこそ太陽の光が洞穴の奥まで行き届く。
 そしてもう一つ。翼龍目の性質。
 前述の通り翼龍は本来湿気を嫌う。それ故他の龍に(助けた少女)が見つかる心配はまず無い。
 もちろん翼龍であるシルヴァもはじめこそこの場所が苦手だった。
 だが、人目を避けるために住み始めて早五百年。今ではすっかり慣れここでの生活を楽しんでいる。
 ついでに言うと、シルヴァが海で泳ぐようになったのも、ここでの生活がきっかけである。

 
     †       †


 少しして何かが聞こえたような気がしてふと顔を上げる。
(気のせいか……? いや)
 確かに洞穴の奥の方から土を蹴るような小さな音が洞内を反響して聞こえてくる。
 それに続いて小さく弱々しいうめき声も。
――なんだろう?
 頭の中で思考を張り巡らせ、一つの答えに行き着く。
 そしてその答えに気持ちが昂ぶる。
 期待で胸がいっぱいになる。
 自然と足が速くなる。
 もしかして、そういう気持ちで洞内を突き進む。
 そして音の主の元にたどり着いた。
 空間が広くなり水も少なく他よりも若干温かい。
 シルヴァの寝室である。
 そして、彼が使う腐葉土のベッドには音の主――今日の朝海から助け出した少女が身を起こしていた。
 ただ恐怖からか目を見開き、体を震わせていたが。
 とりあえず敵ではないと安心させてやらなければならない。
 少女からの信用を得なければ治療どころではない。
「よかった。気がついたんだね」
……が、逆効果だった。
 少女は言葉を聞くと警戒を解くどころか固く目を閉じ身を大きく震わせ縮込ませてしまった。
(まいったな)
 今まで助けてきたのは動物だったからここまで気を遣う必要はなかったのだが、完全に怖がられているような気がする。
 どうすればいいだろうか。
 自分の手を見つめる。
 少女を鷲掴みにできそうな程大きく、簡単に引き裂くことができそうな鋭い手を。
(もしかして、もしかしてオレは龍だから……だから怖がられているのか?もしそうならば)
 そのあと起きたことはほんの一瞬の出来事だった。
 シルヴァの足下からあの移動の魔法陣よりも複雑な魔法陣が現れ、その光がシルヴァの体を包む。
 その光は龍の輪郭をぼやかし、崩し、別の形を造り上げていく。
 そして光がおさまり再びもとの空間に戻った時、そこに龍の姿はなく、代わりに十五,六になる少年の姿があった。
 闇を染めたような黒い髪、光を吸い込みそうな漆黒の瞳、それらとは対称的な白い肌、非の打ち所のない容姿容貌。
 もちろんシルヴァなのだが、髪、瞳を除き、全く持って本来の姿の面影を残していない。
(これでよし)
 自分の体の変化が終わったのを確認すると少女を見やる。
 相変わらず目を固く閉ざし、身を震わせている。
 とりあえずシルヴァは少女に近寄ると優しく頭をなでて声をかけた。
「気がついたようだね。怖がらなくてもいいよ。もうだいじょうぶだから」

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